Monday, January 09, 2012

大学ラグビー決勝。そしてフラットパスについて。

1日遅くなってしまったけれど、ラグビー大学選手権決勝のことを。
帝京大 15-12 天理大 @国立競技場

素晴らしいゲームだった。
3連覇という偉業を成し遂げた帝京大は見事だった。そして、惜しくも敗れてしまったけれど、天理大の奮闘もやはり見事だった。お互いの持ち味が随所に発揮された非常に見応えのあるゲームだったと思う。

おそらくこのゲームは今後、「天理大の大健闘」という観点で主に語られることになるだろう。
そして、それ自体は間違ってもいないと思う。
ただ個人的には、何よりもまず最初に、帝京大がこの3年間で積み上げてきたものへの賞賛と敬意があって然るべきかなと思っている。3連覇というのがまさに偉業である、というだけではなくて、帝京大の存在が、今後の大学ラグビーにおける"Standard"を一段階上のレベルまで押し上げることになったと感じるからだ。それほどまでに、帝京大のクオリティは充実していたと感じている。

ちょっと話は逸れるが、実は昨晩、録画しておいた高校ラグビーの決勝(東福岡 36-24 東海大仰星)もTV観戦した。大学選手権の決勝を観る前に、こちらを先にチェックしたのだけれど、誤解を恐れずに書いてしまうと、大学決勝の方が圧倒的に面白かった。勿論、高校ラグビーがつまらないと言いたい訳ではなくて、全国の高校ラガーの頂点を決めるゲームは、高校ラガーの生き様が体現されていて非常に見応えのある内容だったのだけれど、ただ、ラグビーそのもののクオリティは、圧倒的に大学ラグビーの決勝が上だった。そしてその違いは、単に高校/大学の差から生じたものではなくて、ひとえに帝京大/天理大の両チームが引き締まったプレーをしていた、ということによるものだと思う。1つひとつのプレーの強さやスキルレベルで、大学が高校を凌駕するのは当然だ。問題は、そこじゃない。レベルを問わず、引き締まった一戦というものはある。今シーズンの大学ラグビー決勝の面白さは、この点にこそ認められるべきかなというのが、俺の感想だ。
特に帝京大は、広範な意味で、ラグビーをタイトなものにした。
この功績と、そのことが醸し出すラグビーの新たな醍醐味が、間違いなくあるはずだ。

帝京大のラグビーが「つまらない」というのは、1つの側面かもしれない。
でも一方で、タイトで引き締まったプレーは極めて見応えがある、というのも事実だ。
個人的には展開志向のチームの方が好きだし、多くのラグビーファンも同様だと思うけれど、そのことが帝京大の価値を毀損するものでは全くない、という点は改めて書いておきたい。

前置きが長くなってしまったけれど、その前提の上で、やはり天理大。
こちらも素晴らしかった。間違いなく、天理大はベストバウトをしたと思います。
惜敗したチームに対して「ベストバウト」は失礼かもしれないけれど、そうとしか表現できない。セットプレーであれほど劣勢に立たされながら、一度ボールを持てば果敢なアタックを仕掛け、帝京大の強固なディフェンスラインを度々ブレイクしてみせたのは、本当に見事だった。
やはり何と言っても、SOとしてチームをリードした立川選手の存在が大きかったと思う。

BKの観点でみると、帝京大と天理大の最大の違いは、SOのパスコースかなと思っている。
帝京大のBKラインは、ボールの軌道がやや深く、多少流れ気味のランニングコースを取ってくる印象だ。FWのボール供給が安定していること、そして個々のランナーにある程度スピードがあることで、このスタイルが成立しているのかなと。SOの森田選手から繰り出されるパスは、全般的にみると、トライラインに対してほぼ45度近く下げた角度で放たれているような印象がある。(ただ、これは森田選手個人の力量云々というよりも、多分に「チームの選択したスタイル」の問題だ。彼自身は、ランニングスキルも高くて、非常に良い選手だと思っている。)
一方の天理大をみると、SOの立川選手は、原則としてボールを下げない。ロング/ショートを問わず、基本的にはフラットな角度にパスを放ってくる印象がある。ここが全く違うポイントだ。特にロングパスの場合、パス自体のスピードがないと、簡単にシャローされてしまう。また、パスコースが読まれてしまうと、往々にしてホスピタルパスになる。つまり、天理大のアタックが上手く機能しているのは、SO立川選手のパス自体が速くて、そして読みづらいということだ。勿論、ハベア、バイフという外国人の両CTBが外に控えているのは大きいけれど、彼らを「ただの駒」にしていないのは、やはり立川選手のスキルによるものだろう。

JSportsの解説で、藤島大さんが「天理大には、大きく言えば『日本ラグビー』の可能性を感じさせるものがあった」といった主旨の発言をされていたけれど、その1つのポイントは、こんなところにあるのかもしれないと、個人的には考えている。
ディフェンス・プレッシャーが極めて速くなっている昨今のラグビーにおいて、簡単にボールを下げるのは自殺行為だ。それでも、ただフラットにボールを運んで、ほぼ真っ直ぐのランニングコースで突進していくのは、フィジカルに劣るジャパンには辛いと思う。テンポとフィジカルだけで切り裂けるほど、日々進化していく国際レベルのディフェンスは簡単ではないかなと。
そこで、理想的には思う訳です。
パスは下げない。でも、相手の出足を許さない。そんなパサーが生まれないかと。

魅力的なフラットパスは、フラットであることだけが醍醐味ではないと思います。